Re: 被写体によるフィルム現像時 ( No.1 ) |
- 日時: 2004/07/14 16:54
- 名前: イモ
- ZONEさんの最初の質問は、遺物の撮影フィルム遺構の撮影フィルムで現像時間を変えていることがあるのではないか。そして遺物撮影フィルムの現像時間が遺構の撮影分に比べて、いくぶん長めにしている事例があるのではないかという指摘とその理由です。
指摘のようなことは、状況に応じて行う必要があります。これは被写体によるということでなく、フレアの発生によって現像時間を延長させる必要があるということです。私が最近知ったなかで、実際のデータが伴う奈文研写真資料調査室の事例を挙げて説明します。
遺構の撮影フィルムのコントラストは、CI 0.60前後に仕上げられていました。 これは奈文研で使われている引伸機が散光式であることから、標準的なCI 0.56よりもいくぶん高めですが、ほぼ順当なネガティブのコントラストといえます。これは散光式の引伸機でも、機種によって得られるコントラストが違うことがあり、使用する引き伸し電球の色温度によって多階調印画紙のコントラストが変わるからです。
遺物の撮影フィルムのコントラストは、CI 0.70と遺構の撮影フィルムよりもコントラストが高く仕上げられていました。この遺物の撮影フィルムの現像は、土器を立面にした白バックによる撮影でした。
このCI値の異なるネガティブの現像によって、ほとんど同一の多階調フィルターで、調子の良いプリントが仕上げられていたのです。 これは最初にお話ししたフレアの多寡によって、同じ現像時間でも実際に得られるネガティブのコントラストが違ってくるからです。
フレアについては、会誌15号のp.48を見て下さい。 またフレアについて、p.49の図13のグラフが間違っていました。お手数ですが写真の小部屋で案内されていますように、http://maishaken.sakura.ne.jp/file/seigo_imoto.pdf で正誤表をダウンロードして下さい。
会誌15号のp.49図13(正誤表に記載のグラフ)を見て下さい。これが明暗を含んだ一般的な屋外での被写体と最近の多層コーティングされたレンズとの組み合わせで発生するフレアによるコントラスト低下です。
特に白バックを使うと、フレアが増加します。 白バックから反射した強い光の一部がレンズ内で散乱し、大きなフレアを発生させます。 白バックを用いた撮影では、画面中の白の割合が多いほどフレアが多くなります。白バックとともに骨格器などを配置した場合は、被写体そのものが白に近いことからフレアが多くなります。 また白バックを白に再現させるため、どのくらいの光をバックに当てるか、これによって発生するフレアの量が大きく違ってきます。 遺物の俯瞰撮影は、白バック単独の照明を当てるため、強すぎる光を当てるやすくなります。これが大きなフレアの発生となります。
白バックでは、会誌15号のp.49図13のグラフ以上に、レンズやカメラ内部の光の散乱により、多い光がフィルムの低露光量部分に回り込みます。すると、フレアによる濃度上昇を示す点線は、VIくらいから始まり、V〜0の点線位置はもっと上(よりコントラウトが低く)になります。つまりフレアのない状態で作られる特性曲線とコントラストの差がより大きくなるのです。
奈文研写真資料調査室では、CI値を測定して現像時間を決めることはしていませんでした。白バックで撮影した場合、フレアによってコントラストが低くなることから現像時間をいくぶん延長して、実際のネガティブのコントラストが遺構の撮影フィルムと違わないようにしていたのです。その結果がCI 0.60とCI 0.70の違いであったのです。
ここで注意すべきは、奈文研が白バックの撮影でCI 0.70していたからいうことで、形だけの単純なマネをしないことです。 先ずフレアの発生を極力少なくする必要があります。 1.必要以上の光量を白バックに与えない(必要最小限にする)。 2.カメラの前や撮影台の前に黒枠を用意して、再現される画面外の部分から余分な白をレンズに入れない。画面外の白は、カメラボディー内部や蛇腹などで散乱されてフレアとなる。 3.撮影レンズの前にはフードやライトカットを取り付ける、レンズに余分な光が入射しないようにする。 このようにフレアを最小限にした上で、どのくらいのCI値の変更をするか決めなければなりません。
最近聞いた事例では、CI 0.78という極端に高いコントラストで、現像処理された白バックの遺物のネガティブから、多階調ペーパーでNo.4というに高いコントラストのフィルターでプリントしていると聞いたことがありました。 現像でネガティブは相当にコントラストを高くなっているのに、プリントのコントラストが不足するという事態です。これは照明比が低すぎるか、同時にフレア量が多いという複合の可能性があります。 この場合も適切なCI値が得られ、次にフレアの発生を最小限にして、照明比を決めるということになります。 自分の環境に適切な基本のCI値が安定して得られることです。それが実現できたら、基本CI値を定点として、状況に合わせたCI値を変えることも必要になります。CI値は現像状態(それも単にコントラスト)をチェックするだけのものです。しかし、白黒フィルムでは、現像方法と、撮影方法との両方が決まらないと、モグラたたきのような事態になるのです。その出発点が、現像では最大公約的なコントラストを求めるということなのです。
このフレアのコントロールは、白黒ネガティブのCI値の調整にのみ必要ということではありません。カラーリバーサルを使ってもフレアの多い条件での撮影では、被写体のシャドー部がねむく、黒に近い部分の濃度が不足した結果となります。
今お答えしたのは、被写体の相違ではありません。ほとんどの被写体が、もし黒バックで撮影されればフレアの影響は無視でき範囲になるはずです。
長くなりましたので、「被写体の相違」と現像時間については、一旦休憩後にお答えします。
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Re: 被写体によるフィルム現像時 ( No.2 ) |
- 日時: 2004/07/14 14:53
- 名前: イモ
- 今度は「被写体の相違」とCIとの関係について述べてみます。
私は会誌15号では、被写体によってCI値を変更するようにとは書きませんでした。 またフレアによってCIを変更する必要があるとも書きませんでした。
私も最終的にはそこまでのことを提案したいと思っています。今回15号では、CIやフィルム感度、調子再現を理解してもらうことが先決でした。 私も特性曲線が苦手で、理解するのに時間がかかりました。 やさしく書いたつもりでおりますが、多くの方は難しいという印象ではないでしょうか。
その中でも急務は、現像状態の定量的な把握(CI値)にあります。 最大公約数的な被写体を、自分の引き伸し環境ではどのくらいのCI値にするかが基本です。 この基本には、どう決めたらよいかとういう尺度が必要なのです。 そのため会誌15号は基本を固めることしか書いていません。
この基本が決まってから、被写体の輝度域に応じて、ネガティブのコントラストを変更するというのが、更なる白黒写真の高画質化の道なのです。
明暗差の小さい(輝度域の狭い)被写体を撮影し、自分にとっての基本のCI値で現像し、標準的な2号のペーパーにプリントしてみます。 この時の被写体を、白バックに白っぽい骨角器を配置した状態を思い浮かべて下さい。 ややこしいので、白バックのフレアの問題は考えないで下さい。 この時に得られるネガネガティブには、通常の被写体でハイライト部に相当する輝度域しか記録されません。つまり通常のシャドー部に相当するネガティブのうすい部分ないのです。見方を変えるとCI値とは関わりなく、ネガティブは濃いめであるがコントラストが低い状態です。 このネガティブから2号のペーパーにプリントすると、しまりのないプリントにしか仕上がりません。 この時ネガティブのコントラストを高く現像すると、2号のペーパーに調子のある再現ができます。
ほとんどの人が上記の被写体の場合、ネガティブの現像を変えずに、プリント時のペーパーの号数を高いものにするか、多階調ペーパーでコントラストの高いフィルターを使って対応します。 白黒ペーパーの調子再現について、今回の15号で言及できなかったのですが、コントラストの低いネガティブを高いコントラストのペーパーに再現した場合、ハイライト側の圧縮が大きくなり(コントラストが低く)、骨角器の明るい部分や白バックとの分離が不十分になります。 ペーパーのコントラストを調整して、何とかプリントに仕上げることができるのですが、調子再現ではネガティブのコントラストを高くして、2号くらいのペーパーにプリントした結果の方が優れます。 これは会誌15号p.49の図14がその状態を表しています。
逆に被写体の明暗差が極端に大きな被写体で、快晴下の屋外撮影で直射日光が当たっている明るい被写体から、日陰の中の黒い被写体までを再現対象とします。 この場合ネガティブを自分にとっての基本のCI値で現像すると、ネガティブのコントラストはCI値とは関わりなく高くなります。この時、ネガティブのコントラストを低くした現像をすると、2号相当のペーパーにプリントすることができます。ただしネガティブのコントラストを下げると実効感度が低下するので、その程度に応じて露光を多くする必要があります。 簡単に表現すると、「たっぷり露光であっさり現像」ということになります。 こうすることで、ネガティブには輝度域の大きな被写体が、とばす・つぶれずに再現できる状態で記録されます。
質問者の名前がZONEさんとありますから、ZONE SYSTEMを勉強されている方と思います。 ゾーンシステムは、白黒ペーパーの銘柄やコントラストを固定して、被写体の輝度域(ZONE)によってネガティブのコントラストを変えます。白黒ペーパーに最大の調子を再現するための方式を体系化したものがゾーンシステムなのです。 ゾーンシステムは実用的で優れた方法です。高画質化を目指す方は、是非勉強してみて下さい。
カラー写真とは異なり、白と黒ですべてを再現する白黒写真は、優れた調子再現を追求すると、カラーフィルムとは異なった撮影(少なくとも感度設定では)をしなければなりません。 また一律で同じ現像ということではありません。 このことからも撮影する被写体の輝度域に応じて、現像することのできるシートフィルムの使用が最終的には望ましいのです。
CI値は、基本の、あるいは意識的にコントラストを変えた場合の現像状態の定量的な尺度となるものです。 基本のCI値が把握できた状態、安定したCI値が得られている状態になって、初めて高画質の入り口にたったという状態です。 白と黒で豊かな調子、これこそが白黒写真で情報量の多い記録ということになります。
私も被写体の輝度域とネガティブのコントラストの変更、白黒ペーパーの銘柄による調子再現の違い(特に多階調ペーパー)について書き残していると感じています。
会誌15号のp.120にゾーンシステムに関する本の紹介をしています。 関心のある方は、先ず「ゾーンシステム・ハンドブック」を読んでいただくことをお勧めします。 この「ゾーンシステム・ハンドブック」は、銀塩写真の存続に逆風が吹いている今年の3月に刊行されたものです。その点からもこの本の刊行をうれしく思いました。 また、今まで難解といわれたゾーンシステムを分かりやすく解説した良書です。 会誌15号の特性曲線と、ゾーンシステムとを併行して理解されることが良いかと思います。
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Re: 被写体によるフィルム現像時 ( No.3 ) |
- 日時: 2004/07/14 10:57
- 名前: ぎゅう
- 「遺物写真の現像時間はやや長い」ということに関して、私には細かい理屈はありません。ただ、遺跡であれ遺物であれ、「多階調印画紙のフィルターであれば2番で焼きつけができるコントラストのネガを得る」にはをつきつめていった結果が、そうなったということです。いちいちフィルターを変換すると作業能率が落ちるのです。
もうひとつ。私がまだまだ若い時、「印刷に適するネガの調子とは」を習ったのが京都の真陽社でした。真陽社はいまでもコロタイプ印刷をしているのですが、“コロタイプで製版しやすい調子”にあわせた結果でもあります。コロタイプは軟調にはしやすいのですが硬調にするには難しいということがありました。ネガ原判自体を直接脱膜して使うからです。「ねむいネガはどないにもならない」のです。今となっては、たまたまそのことが井本さんが書かれています散光式の引伸し機や多階調印画紙に合致したこともあるかもしれません。 「2番でやけるネガの調子」が融通がきき、もっとも理想的なのです。2番で焼けるネガは、その時の好みや目的にあわせられます。極端には0番でも4番にでも変えることができ、どんなにも焼けるからです。「限られた号数でしか焼きつけができないネガ」は不都合なのです。 「遺物の現像時間がややながめ」ということは、白バックで撮るかぎり、その理屈は井本さんの言われているとおりだと感じています。これまで私は考えたこともありませんでした。
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Re: 被写体によるフィルム現像時間の相違 ( No.4 ) |
- 日時: 2004/07/14 14:48
- 名前: ZONE
- イモさん、ぎゅうさん、ありがとうございました。
被写体が遺物だからという理由で、硬いネガを作っているわけではなくて、どちらも結果的に同じ硬さのネガが得られていたわけですね。永年の疑問が解決しました。もう一歩進むと、被写体輝度域に合わせて現像時間をコントロールする必要があるというお話と理解しました。これから少しずつお答えと会誌を読み解いていきます。
♪君と夏の終わり 将来の夢 大きな希望 忘れない 10年後の8月 また出会えるのを 信じて 最高の思い出を・・・ (secret base 〜君がくれたもの〜 /ZONE)
ZONEは、北海道のバンドル「ZONE」から頂きました。紅白歌合戦にも何回か出場しています。10年後の8月ならぬ、毎年7月の会誌を楽しみにしています。
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